いのりをかたちにする「引き染め」
2021.10.22
文様と引き染め
作品の体験要素として「布を染める」という行為があります。本作品で使用しているのは「引き染め」といわれる技法で、作品のビジュアルでも見られるように長い布の両端を木の柱に結んで固定し、はけを使って布に染料を塗っていきます。布には文様を出したい部分にのりで型取りがされており、染料を塗った後で布を洗い流すとのりの部分には染料がのらずに文様が現れるという仕組みです。この技法は宮城県の工芸品である「常盤紺型染(ときわこんがたぞめ)」という染め物から着想を得ました。
「文様」と「染める」行為には切り離せない関係があると考えます。真っ白な布にのりを置き、はけで染料をのせて文様を浮かび上がらせ、その布から着物や手拭いに形を変え、使用する場面や目的に合わせた文様が人々の手に渡ります。「染める」ことで文様は人とつながり、込められた願いを発揮します。そのことから、「染める」という行為はこの作品にとって願いを込める工程であり、染める行為をする人はその文様を目にする誰かへ願いを届ける人であると捉えました。この一連の工程から生み出される文様は、いのりのかたちの一つなのではないかと思います。
引き染めの見学
色が塗られていくアニメーションと、作品の展示のヒントを得るために、永勘染工場にご協力いただき、引き染めの一連の工程を見学しました。
・のり置き : 染め物の図版の形に、もち米・ぬか・塩などを混ぜた「防染のり」を布に密着させます。
・染色 : 張木(はりぎ)と伸子(しんし)を使い、しわができないように空中に布を張ります。刷毛と染料でリズムよく布を染めます。
・水元 : 最後に、のりや余分な染料を水で落とします。
これらの工程を経て、型と布地との境界がはっきりとした、染め物が出来上がります。
この日の取材では、引き染めの工程に加えて、工場で保管されている紙製の型を見せていただいたり、布の固定方法など、展示についてのアドバイスを頂いたりしました。
実際に、引き染めの工程を見ることで、のりのテクスチャや染色しているときのはけと布がこすれる音など、書籍やウェブサイトにはないさまざまな知見を得ることができました。