いのりのはなし
今回、私たちはこの作品を通して様々なリサーチやフィールドワークを行いました。
「酒」のいのりのかたち
本作品は、酒を通して目に見えない存在に目を向けるインスタレーション作品です。酒にまつわるさまざまなモチーフが酒器と光によるコースティクス(集光模様)の中から立ち現れ、その様子は鑑賞者の動きによって変化します。酒造りの現場を訪問して出会った目には見えない生命や信仰を抽象的に描き出そうという試みです。私たちが日々の暮らしの癒やしとして飲むお酒。その中に、「日本」の名前がつく「日本酒」があります。飲用として生まれたお酒が多いのに対し、日本の酒は姿形の見えない神様とつながる神聖なものとして、古くから祭事で用いられてきました。米は日本において神様に捧げる食べ物であり、発酵や腐敗が進んだものは「神様が食べたので色が変わった」と捉えられ、神聖になったもの=神様と人間をつなぐもの、という認識があったといわれています。酒は、昔の日本では田植えや稲刈りの際に集落の一体感をうむために使われていたともいわれ、現代では嗜好品として日常的に飲まれており、景気付けや打ち上げ、親睦を深める場に欠かせないものとなっています。神様とつながる他、空気や場といった人と人とのつながりを生み出すものだともいえます。
続きを読むフィールドワーク
2020年10月、作品制作にあたり、山形県米沢市の小嶋総本店の酒蔵を見学させていただきました。小嶋総本店は「東光(とうこう)」の銘柄で知られる、創業400年を超える酒蔵です。麹(こうじ)菌や酵母菌といった微生物によって、酒は造られます。それらは生き物であるがゆえ、ささいなことで味が変わってしまうこともあり、酒造りは今もなお失敗してしまうことがあるそうです。知識、技術、経験により予測は立てることができますが、最終的には人が麹や酵母の様子を観察しながら酒造りは進められます。
続きを読む実制作
見えない存在を描く、というコンセプトをもとに、酒にまつわる様々なモチーフが酒器から現れては消える、という情景を表現しようと考えました。ミストスクリーンやARなども手法として検討しながら、最終的にはプロジェクションによる表現を選択しました。日本語の「かげ」には、陰影の意味以外に、【人の目の届かないところ。】【心の中に浮かぶ姿。おもかげ。】【恩恵を与えること。また、その人。】などといった意味があります。今回表現したいものと高い親和性があったため、さまざまな透明な酒器に対して、プロジェクションによる光とかげを用いて、実体があるのかないのかわからないような表現を作りたいと考えました。
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