フィールドワーク

2021.10.25

酒蔵見学

 

2020年10月、作品制作にあたり、山形県米沢市の小嶋総本店の酒蔵を見学させていただきました。小嶋総本店は「東光(とうこう)」の銘柄で知られる、創業400年を超える酒蔵です。

 

 

麹(こうじ)菌や酵母菌といった微生物によって、酒は造られます。それらは生き物であるがゆえ、ささいなことで味が変わってしまうこともあり、酒造りは現代でもなお失敗してしまうことがあるそうです。知識、技術、経験により予測は立てることができますが、最終的には人が麹や酵母の様子を観察しながら酒造りは進められます。

 

蒸米に麹菌を繁殖させ麹を作る、最も味を左右する日本酒造りの要の作業を「製麹(せいぎく)」といいます。麹は温度・湿度が高くどんな菌も育ちやすい環境で育てるため、雑菌が繁殖して麹が駄目になってしまうこともあるため、製麹は特に大変だそうです。小嶋総本店の小島 弥之祐さんは「30日間の子育てのようなものです。常に気を配り、まるで赤ちゃんの世話をするような感覚です」と話します。それだけに、一つ一つの工程で、米や麹は非常に大切に扱われていました。製麹中の麹に対して、「置いてある」ではなく「いらっしゃる」という言い方をされていたのも印象的でした。

 

 

大変なのは、製造手法だけではありません。酒の種類によっては、朝早くから夜も寝ないで造る酒もあります。そんな作業中に誤ってタンクに落ちると、充満した炭酸ガスにより二酸化炭素中毒となり、死に至ります。実際に全国の酒蔵で何年かに一度、転落事故で亡くなる方がいるそうです。そのため、1年間無事に酒造りができ、皆さんに喜んでもらえる酒ができるよう、造り手の方々は祈とうやお参り、神事を大事にしており、蔵の所々に神棚や瓶子が置かれ、神棚には造った酒が供えられていました。

 

 

 

命のない「もの」ではなく、目には見えない微生物たちと一緒にいる感覚。常に神様に見られていて背筋が伸びるような感覚。普段私たちが感じていないその感覚をかたちにできないだろうか。私たちは酒や酒蔵を取り巻く、目に見えない生き物や信仰のかたちに興味を引かれ、制作のコンセプトとすることにしました。