デジタル表現で動き出す文様
2021.10.22
心地よい動きの探求
本作品は、布に対して文様の映像を投影し、はけを持って布をこすると、映像の中の文様に色が塗られます。はけを持った手の動きを測域センサーが捉え、位置を追跡します。手の位置をUnityに送信して、CG上のテクスチャに色を塗ります。一定の面積を塗ると、色が広がり、文様のアニメーションが始まります。
文様一つ一つのアニメーションはシェーダーで作りました。波の細かさ、速さ、線の太さなどのパラメータを設定し、1種類の文様でたくさんのバリエーションが生まれるようにしました。
文様全体のアニメーションは、パーティクルとして制御しました。波全体の動き、風に吹かれる麻の葉の動き、矢の飛ぶ速度は乱数や物理演算などを利用し、演出ごとランダムに変化させています。
ランダムな値の範囲やアニメーションの組み合わせは、何度も投影検証を重ね、「ずっと見ていられるアニメーション」や「見ていて心地よい速度と変化」を目指して、調整しました。
動かすことで見えたもの
本作品の記録撮影は、取材に引き続いて、永勘染工場の実際の作業場をお借りして行いました。壁などの平面への投影とは違い、布の自重によって投影面がゆがみます。また、作業場の構造に合わせてプロジェクターを設置するので、位置や角度に制限があります。これらに対応するために、投影面に合わせてアプリ側で映像を補正しました。
大まかな台形補正はプロジェクターでできますが、最終的には地道な手作業で行いました。撮影中は、永勘染工場の職人の方に作品を体験していただきました。
作品に触れた職人の方から、「現代の技術と古くからある文様とを組み合わせることで、これまでと違う印象になった」という感想を頂きました。
作品を楽しんでいただいている最中、職人の方の手の動きをセンサーが捉えられないことがあり、色が塗られる演出とトラッキングに課題が残りました。
文様に動きが加わることで、青海波の波に心地よさを感じたり、矢の動きや方向に引力のようなものを感じたりするようになったことが深く印象に残っています。
最後に
「いのり」と「文様」をテーマに、リサーチと作品の制作を行いました。文様は、衣類などの日用品にあしらわれ、私たちの身近にたくさんあるものです。造形・意匠に加えて、昔の人々が自然の中にある形や現象を抽象化し、祈りと結び付けたとても身近な「いのりのかたち」であることが分かりました。
作品のプロトタイプでは、文様の由来と、文様に込められた祈りを「染める」という行為とアニメーションで表現することで、今までとは違った文様の見え方や面白さを発見できました。