大祓 茅の輪くぐりと形代

2021.12.30

作品の解説

 

神社の神事である大祓(おおはらい)で使われる形代(かたしろ)をテーマにしたAR作品。体験者がiPadを手に茅の輪(ちのわ)をくぐると、無数の形代が異空間を飛び回り、穢(けが)れをうつされたいくつもの形代が川へ流されて清められるなど、形代が大祓で行う一連を仮想空間で可視化した作品です。

 

神道では、穢れは日常生活の中で蓄積されていくものとして考えられています。そのため、たまった穢れを祓うために年に2回、6月と12月に大祓という神事が行われます。6月に行われる大祓を「夏越の祓(なごしのはらい)」と呼び、年の初めの半年間で溜まった穢れを祓い、無事に夏を乗り越えられるようにと願い、残り半年を無事に過ごせるように祈ります。12月に行われる大祓は「年越しの祓(としこしのはらい)」と呼び、一年を無事に過ごせた感謝と、新しい年が良い年になるように祈ります。

 

大祓で穢れを祓う儀式としてポピュラーなのは、「茅の輪くぐり」と「形代」です。茅の輪くぐりは、茅(かや)や藁(わら)で作られた直径数メートルの輪の中を、大祓詞(おおはらえのことば)を唱えながら8の字で3回くぐることで、溜まった穢れや厄災を茅の輪にうつし清めるとされています。形代は、白い紙を人の形に切ったもので、「人形(ひとがた)」とも呼ばれます。形代で自分の体を撫(な)で、3回息を吹きかけることで自分に溜まった穢れを形代にうつします。形代を清らかな水に流すことで穢れを浄化し、次の半年の無病息災を願います。

 

※茅の輪くぐりも形代も、神社によって形式が異なることがあります。

 

 

 

 

茅の輪の伝承

 

茅の輪くぐりは、スサノオノミコトの神話に由来するといわれています。スサノオノミコトが旅の途中、蘇民将来(そみんしょうらい)と巨旦将来(きょたんしょうらい)という兄弟に宿を求めました。初めに生活が豊かだった弟の巨旦将来の元へ行きますが、スサノオノミコトは粗末な身なりだったため、巨旦将来はスサノオノミコトを家に入れませんでした。これを見ていた兄の蘇民将来は、貧しいながらもスサノオノミコトを家に招き入れ歓迎しました。数年後、スサノオノミコトが再び蘇民将来の元を訪れます。そして、疫病から逃れるために茅の輪を腰につけるようにと教えました。その後、疫病が村を襲いますが、蘇民将来は難を逃れました。以来、無病息災を祈願するために茅の輪を腰につけていたものが、江戸時代を迎える頃に、現在のように大きくなりくぐり抜ける様式になったといわれています。時代が進み、コミュニティー規模の変化により、いのりの対象物の大きさや体験人数が変化することは、いのりという文脈を継承しつつ、いのりの媒介はアップデートしているとも考えられ、私たちのプロジェクトとも通じるようで興味深くもあります。

 

 

 

依り代信仰

 

私たちがまず着目したのは、自分に降りかかる病や不幸を代わりに受けてもらう、または防いでくれる依(よ)り代の存在と、健康や安全を願う日本の文化や考え方です。代表的な例としては、こけしが挙げられます。子どもがこけしを背負うことで魔よけの役割を担うと考えられていたそうです。また、東北地方では「切り紙」といわれる神棚飾りがあり、神様が宿る、神様とつながると考えられています。全国的な例では、獅子舞も挙げられます。疫病を退治し、頭をかむことでその人についている邪気を食べるとされています。ほかにも、集落の境や村の中心にある大きな石や岩などは神の宿る依り代として人々から祀(まつ)られる対象となっていました。

 

これらのリサーチを通して、自分の穢れを受けてくれる存在、そして紙を使用する文化として「形代」にフォーカスしました。